玄関の鍵が折れるのも悪夢ですが、自動車の鍵が、イグニッションシリンダー(エンジンをかける鍵穴)や、ドアの鍵穴で折れてしまった場合、その問題はさらに複雑で、深刻なものとなります。なぜなら、現代の車の鍵は、単なる物理キーではなく、イモビライザーという盗難防止装置のICチップを内蔵した、高度な電子デバイスだからです。この状況に陥った時、取るべき対処法は、一つしかありません。それは、「ディーラー、または、自動車の鍵を専門とする鍵屋に、レッカー移動も含めて相談する」ことです。まず、なぜ自分で何とかしようとするのが無謀なのかを理解しましょう。車のキーシリンダーは、住宅のものよりも、さらに狭く、複雑な構造をしています。素人が針金などでいじれば、シリンダー内部を破壊し、ステアリングロック機構などに、致命的なダメージを与えてしまう可能性があります。そうなれば、シリンダー交換だけでなく、ステアリングコラム一式の交換という、数十万円コースの修理になりかねません。また、たとえ幸運にも折れた破片を抜き取れたとしても、問題は解決しません。折れた鍵のヘッド部分だけでは、イモビライザーの認証が行えないため、エンジンはかからないのです。新しい鍵を作成し、そのID情報を、車両のコンピューターに再登録するという、専門的な作業が必ず必要になります。では、ディーラーと専門の鍵屋、どちらに頼むべきでしょうか。まず、「ディーラー」に依頼するのが、最も確実で安心な方法です。メーカーの正規の部品を使い、正しい手順で、シリンダーの交換から、イモビライザーの再設定まで、全てを完璧に行ってくれます。ただし、車をディーラーまでレッカーで運び、部品の取り寄せなどで、数日間、車を預ける必要があること、そして費用が比較的高額になることを覚悟しなければなりません。一方、「自動車の鍵を専門とする鍵屋」に依頼するメリットは、その「スピード」です。多くの場合、レッカー車で現場まで駆けつけ、その場で、鍵の破片の除去、新しいキーの作成、そしてイモビライザーの登録までを、数時間で完了させてくれます。費用も、ディーラーより安く済む場合があります。ただし、全ての鍵屋が、全ての車種のイモビライザーに対応できるわけではないため、依頼する際には、自分の車種と年式を正確に伝え、対応可能かどうかを、必ず事前に確認する必要があります。