鍵穴の中で折れてしまった鍵の破片。素人が手を出せば、事態を悪化させるだけのこの難問を、プロの鍵開錠業者は、一体どのような技術で解決するのでしょうか。その作業は、まるで精密な外科手術を彷彿とさせる、専門知識と特殊な道具、そして熟練の技が三位一体となった、まさに職人芸の世界です。鍵師が現場に到着して、まず行うのは、鍵穴の「診断」です。ペンライトを使い、鍵穴の奥を様々な角度から覗き込み、破片がどの深さで、どのような角度で、そしてどれくらい固く詰まっているのかを、正確に把握します。この最初の診断が、その後の作業方針を決定づけます。次に、鍵師の道具箱から取り出されるのが、「鍵抜き専用工具」です。これは、一本の細い金属棒の先端が、釣り針のようなフック状になっていたり、あるいは、のこぎりのように微細なギザギザが付いていたりと、様々な形状をしています。鍵師は、診断結果に基づき、最も適した形状の工具を選択します。そして、その極細の工具を、折れた鍵の破片と、シリンダーの壁との、ほんのわずかな隙間に、慎重に、そして深く滑り込ませていきます。この時、シリンダー内部のピンを傷つけないよう、細心の注意が払われます。工具の先端が、破片のギザギザの部分や、折れた断面の角に、うまく引っかかった感触を得たら、そこからが、まさに腕の見せ所です。鍵師は、指先に全神経を集中させ、引っ掛けた工具を、ゆっくりと、しかし確実に、手前に引き抜いていきます。時には、左右に小刻みに動かしながら、破片とシリンダーとの固着を剥がしていくこともあります。この、内部の構造をイメージしながら、目に見えない相手と対話するような、繊細な作業を繰り返します。そして、ついに、鍵穴の奥から、銀色に光る鍵の破片が、その姿を現した瞬間、仕事は完了です。多くの場合、プロの手にかかれば、シリンダーを傷つけることなく、この難手術は成功します。それは、長年の経験と、専門的な道具がなければ決して真似のできない、まさに神業なのです。