家の鍵のスペアを作ろうと、ディンプルキーを鍵屋さんに持って行ったところ、提示された値段が「一本5,000円」と言われ、その高さに驚いた経験はありませんか。ギザギザの鍵なら数百円で作れるのに、なぜディンプルキーだけが、これほどまでに高額なのでしょうか。その理由は、ディンプルキーが持つ「圧倒的な防犯性能」と、それを再現するために必要となる「高度な技術と設備」にあります。ディンプルキーの値段が高い第一の理由は、その「構造の複雑さ」です。従来の鍵が、ギザギザの二次元的な形状でピンを上下させるだけだったのに対し、ディンプルキーは、鍵の表面に彫られた、深さや角度の異なる複数の丸いくぼみ(ディンプル)によって、内部のピンを、上下だけでなく、左右や斜めといった三次元的な方向に操作します。この極めて複雑な構造が、ピッキングなどの不正解錠を、事実上不可能に近いレベルにまで困難にしているのです。この複雑な形状を、寸分の狂いもなく複製するためには、従来のキーマシンのような、単純なトレース式の機械では対応できません。必要となるのが、「コンピューター制御の高精度キーマシン」です。この機械は、レーザーなどで元の鍵の形状を三次元的にスキャンし、そのデジタルデータを元に、ミクロン単位の精度でブランクキーを削り出します。この高価な専用設備の導入コストと、メンテナンス費用が、スペアキーの値段に上乗せされているのです。第二の理由は、「ブランクキーそのものが高価である」ことです。ディンプルキーのブランクキーは、高い精度が求められるため、製造コストがかかります。また、多くの場合、メーカーによる厳格な管理下にあり、一般の鍵屋が簡単に入手できるものではないため、その希少性も価格に反映されます。そして第三の理由が、「メーカー登録制」というセキュリティシステムです。多くの高性能ディンプルキーは、所有者情報と、鍵に付属するセキュリティカードがなければ、メーカーですら合鍵を作れない仕組みになっています。鍵屋で複製する場合も、このカードの提示を求められることがあり、その厳格な管理体制そのものが、鍵の価値を高めているのです。ディンプルキーのスペアキーの値段は、単なる複製代ではありません。それは、高度な防犯性能を維持するための、技術、設備、そして管理体制に対する、正当な対価なのです。
なぜ高い?ディンプルキーのスペアキー、その値段の理由